タイ語・ちょっとだけ


 1.  タイ文字


1- 1 タイ文字について


ラームカムヘン大王の石碑

 ラームカムヘン大王の碑
  (写真をクリックすると拡大)
 西暦1283年作と伝えられる「ラームカムヘンの碑」(左写真)なるものが、国立博物館に展示されている。
 いわば、タイの「ロゼッタ・ストーン」ともいえる石碑である。一時、「贋物」説もあったが、その根拠は知らない。最近では、学会などでも、本物扱いされているようである。

 13世紀末、スコータイ王朝第3代王、ラームカムヘン(在位 西暦 1277〜1317)が、インド古代文字の流れをくむ「古モン文字」を範として、現在使われているタイ文字の原形を創作したとされる。ビルマ文字、ランナー文字、ラオス文字なども、同じ系統の文字だそうである。

 碑文には、大王治世下のスコータイ王朝の繁栄のようすが、左から右への横書き「表音文字」、約1400語(語彙数400あまり)で、彫りこまれているそうだ。
 この碑をみるかぎり、文字体系はかなり整備されており、伝えられる制作年代より前からこの種の文字が使われていた可能性がある。文字制作年代については、この碑文には明記されてはいない。この石碑は、文面からして、ラームカムヘン王より前の時代のものではないことは言うまでもない。


ラームカムヘン大王の石碑部分 『北は、ルアン・プラバーンから、南は、ナコン・シータマラートまで、東は、メーコン(川)のほとりから、西は、パゴー(現ミャンマー、ペグー)までを支配し・・・・』  (注:左の写真を翻訳したものではない)

この碑文を研究解読したのは、当時バンコク博物館長を務めていたフランス人の歴史家、G・セデス( G.Caedes : 1886-1969 )であることは意外と知られていない。


 大王創案当初には、母音記号、子音文字を同列に書いていたが、その後、現在のように、母音符号を子音文字の上下左右に書く方式に変わった。
 実にユニークである。左から右へ文章を読んでいて、「先読み」をしないと文章が読めない方式である。タイ人たちは、一字一字読むのではなく、「パターン認識」をして、文字を読むらしい。読むスピードは、驚くほど速い。
 ところが、この方式は、現代では、さまざまな分野で、大きな障害になっており、一時は、マレーシアやベトナムのように、ローマ字方式の導入も検討されたらしいが、現在もそのままの文字体系を維持している。

 タイ文字を記した歴史資料で、現存しているものは、多いとはいえないが、その大半は、石碑(シラチャルック)と「バイラーン(貝多羅葉)」文書である。

バイラーン
かつて文字は石碑ศิลาจารึก )のほか、หนัง )や、「バイラーンใบลาน )」という「オオギヤシ」の葉に記されるのが普通だったらしい。「」に書かれた古文書にお目にかかったことがない。
 タイ語で、“文字”のことを、「ナン・スーหนังสือ )」というのは、「皮に書かれた書」という意味だそうだ。
 和紙のような長方形のバイラーンの板紙を綴じたノート ( สมุดขอย )や、外交文書など金の薄板に書かれた文書(「金葉表文」)なども、残されていて、国立博物館へ行くと見ることが出来る。

「バイラーン」の詳細については、拙稿、歴史編
バイラーン(紙以前の筆記用具)」を、ご参照ください。