蟻の種類
   --- 北タイの蟻 ---

 蟻 (Formicidae) の種類は、知られているものだけでも、世界中では何万種類もあるようですが、
ふだん目にする蟻は、せいぜい10種類程度かと思います。
 かの「ファーブル」は、幼い頃、蟻の生態を観察して、昆虫の世界に興味をもち、のちに「昆虫記」を書き上げる大昆虫学者になったそうです。人間とはまたちがった意味ですが、かなりしゃれた社会生活を営んでいる動物のようです。
 蟻に咬まれたり、蟻を噛んだり(食べたり)、北タイの田舎暮らしをしていると、さまざまな蟻との係わり合いができてきます。
少しずつですが、ご紹介していきたいと思います。



1.  「モッチャルット」 猛毒

 体長は、20mmほどで、大きめの蟻です。細身の体つきで、頭部と腹部は黒ですが、くびれた腰の辺りは、赤みがかった茶色です。   (後日、写真掲載予定です)
 どこにでもいるというものではなく、水辺付近に生息しています。
 枯れ木や枯れ枝に、孔をうがって、巣を作ります。
写真は、放棄された巣のあとです。1ヶ所に大きな巣を作ることはないようで、巣は、少しずつ離れたところに分散して作っているのだと思われます。
 普通の蟻のように「蟻の行列」を作ることもないようです。ひとつの群れの個体数も、せいぜい、数100匹どまりなのではないでしょうか。
 この蟻は、北タイでは、もっとも恐れられている蟻で、うっかり彼らの勢力圏に入ろうものなら、たちどころに攻撃され、噛まれたときの痛さは声も出ないほどです。「武器」が自慢なのか、単独で襲ってきます。強力な毒液は、咬まれたら最後、1時間もしないうちに、直径数cmほど赤紫色に腫れ上がり、数日は腫れも痛さも引きません。まれには、子供や心臓の弱い人など、亡くなることもあるくらいです。1回目より2回目、3回目と被害も大きくなるように感じます。この蟻の姿をみつけたら、近寄らないことです。


2.  「マンゴー・アリ

 体長は、15mmほどの「赤アリ」です。
「マンゴー」に限らず、「リンチー」や「チョンプー」など、やや大きめの葉のある広葉樹を住みかにしています。
 樹上の木の葉を上手にとじ合わせて、握りこぶし大から、サッカー・ボールほどの大きさの巣を作ります。
 行動範囲はかなり広く、我が家では、50mほど離れた、マンゴーの木とチョンプーの木の間を、電話線伝いに往復していたことがありました。  巣のある木だけでなく、木のまわりも彼らの生活圏で、侵入するものには、大群で襲い掛かってきます。
 咬まれると、かなり強烈な痛さではありますが、毒液の強さは、痛さほどではなく、長続きはしません。我が家の庭のリンチーの木は、彼らの生活圏で、毎年リンチーの収穫時期には、アリとの戦争です。
 このアリの卵や幼虫は、食用になり、「カイ・モット(蟻の卵)」として市場でも売られています。
 「イサーン(東北地方)」などでは、親蟻をすりつぶしたものを、調味料として「酢」のかわりに使うところもあるようです。


3.  「アカ・アリ

 体長は3mm前後の小さな「赤アリ」です。
 この蟻は、「モッ・デーン・ファイ(火のアカアリ)」とも呼ばれており、小粒ながらも恐れられています。
 このアリも巣に近づくものは容赦しません。赤い「ザラメ砂糖」を撒き散らしたかのように、大群が巣から出てきて、襲い掛かります。咬まれると、とても痛く、まさに「やけど」をしたような痛さが、しばらく続きます。
 畑や花壇の比較的浅い土の中に巣をつくります。巣のあたりには、わずかですが「建設残土」が積み上げてあるので、それとわかります。
 主に草本類の種子を食料にしているようです。
そのために、彼らは「農業」を営んでいます。
彼らの巣の近くには、「」があり、「イネ科」の植物などが栽培されています。巣のなかにある「穀物倉庫」には、それらの草の種子が、驚くほどたくさん保存されていて、食料にするのはもちろん、栽培用の種子としても使われるようです。
 このアリの、最も困ることは、人間が蒔いた野菜類の種子をも横取りすることです。アリというのは、ずいぶん嗅覚が発達しているようで、「紫蘇」のタネなど一粒残らず、奪い去ってしまいます。このアリのいるところでは、「紫蘇」など尋常なことでは栽培できません。工夫して、育てたとしてもタネをとる頃になると、また、一工夫しなければ、彼らに先を越されてしまいます。


4.  「メン・マン

 タイでもこのアリの卵や幼虫は「珍味」として、季節になると、かなりの値段で売られているようです。
 また、雨期はじめに「羽蟻」が飛び立つ頃になると、「誘蛾灯」などでおびき寄せて「羽蟻」を集め、乾煎りなどにして食べます。
 このアリの巣を探し当てるのは、なかなか大変ですが、前年に「羽蟻」が出てきた巣穴を頼りにしたり、巣の外を出歩く体長わずか1mmほどの「親アリ(働きアリ)」を追尾して、地下1mほどの深いところにある巣を掘り当てます。巣にいたるまでに、時には、数メートルも、横穴があり、見失うこともたびたびです。
 「メン・マンとり」の詳細は、
こちら のページを、ご覧ください。

5.  「イダテン・アリ

 「イダテン・アリ」などと、勝手に命名してますが、世間で通用するこのアリの名前は、なんというのでしょうか。家の中に、たまに、数十匹単位でやってくるのですが、体長は、手足を含めて10mmほどの、きわめて、手足の長い黒アリです。胴の長さは、多分2mmほどしかないのではないでしょうか。手足が長いということは、すばやく行動することができるわけで、このアリが本気を出して動き回ると、人間の歩く早さ(時速4km)よりは早いのではないかと思えるほどです。また、このアリは、窮すると飛び跳ねることもできるようです。ほかのアリと違って、身を守る「武器」を持っていないため、いざとなったら、「逃げるが勝ち」という種類なのかもしれません。

6.  「スカシ・アリ

 これまた、勝手な命名ですが、体長10mmほどの「黒アリ」です。
 せっせと行列を作って、働いているところに、人間などが近づくと、いっせいに、腰を曲げて、その場にとどまり、ピクリともしなくなります。
 初めて、このアリに出会ったときには、もしかして、何かの原因で、たくさんのアリが死んでいるのかと思いましたが、いたずらに一寸触ったところ、今度は一目散ににげだし、これも、彼らの身を守る手段なのだと思うようになりました。
 子供の頃の「あそび」のなかに、「おに」に、からだを動かしたのを見つかったら、「負け」という「あそび」がありましたが、このアリの姿をみていると、そんな昔のことが思い出されてきます。
 写真の中でも、何匹かは、そんな姿勢をとり始めています。


7.  「米粒を貯蔵するアリ

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 先日、雨期の真っ最中のことでしたが、畑の隅にある「サラー(休憩小屋)」で小休止していると、足元あたりに「アリ」が行列を作って何かを運んでいました。
 近づいてよく見ると、「籾」を運んでいるところでした。
 10mほどの行列をたどっていくと、点々と20粒余りが運ばれていく最中でした。
 この時期、近くの田はたには、稲はありませんが、野菜のマルチングに稲わらは使われていますが、だいぶ前に敷かれたもので、腐敗しかかっています。
 もしかすると、以前に貯蔵しておいた「籾」が、降り続く雨で「発芽」してしまわないように、引越しをしているのかもしれません。
 大きい方の、体調5mm 近い「アリ」は、行列のところどころで、警戒している「兵隊アリ」のようでした。
 うっかりしていて、小さい方の「働きアリ」に咬まれたのですが、威力はなかなかのものでした。



アリにまつわる諺・慣用句」  『タイ日辞典(冨田竹次郎著・養徳社刊)』より

     ・ 「お化けの耳に、蟻の鼻」     −−−  地獄耳。
     ・ 「水がくれば魚がありを食べ、水が引けば蟻が魚を食べる」  −− 栄枯盛衰は世のならい。
     ・ 「マンゴーの番をするアリ」    −−−  片思いの娘の近くで、ほかの男の邪魔をする男。
     ・ 「アリのかけ合い、医者の口」  −−−  「口手丁、口八丁」。
     ・ 「アリもシラミもよせつけず」   −−−  「乳母絵日傘、蝶よ花よ」と大切に育てる。
     ・ 「アリは蜜で死に、人は甘言で死ぬ



参考:  日本の蟻のDataBase

 日本の蟻のDataBaseです。

「利用規定」のまえがきから引用

 『アリは,身の回りでよく見かける昆虫で,しかも仲間と助け合って高度な社会生活を営むこともあって,日本語では“蟻(義の虫)”と表記され一目おかれている。現在日本には273種のアリが知られている。しかし10数年前までは,日本のアリ分類学の大先達である矢野宗幹(Yano, S.)や寺西暢(Teranishi, C.)等の努力にもかかわらず,極く普通に見られるアリでもその学名ははっきりしていなかった。というのは大半(200種以上)のタイプ標本が欧米の自然史博物館に収蔵されており,加えて日本にはアリの文献が皆無だったからである。(以下、略)』



参考:   タイの「アリ博物館」(タイ語)

 バンコクの「カセサート大学(農業大学)」内に、東南アジアの「蟻センター」として、数年前に「アリの博物館」がオープンし、一般にも公開されているそうです。
 タイ国内ばかりか、世界から集めた10万点以上の蟻の標本が展示されているそうです。

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