タイ語・ちょっとだけ



−  あとがき  −

 はじめて、タイ文字を見たとき、なんとも不思議な魅力に取り付かれました。また、はじめてタイ人の会話を耳にしたとき、歌うような響きに感動しました。そんな文字や発声に魅せられて、「タイ語、ちょっと、やってみるかな」と思い立ったのは、もう20年も昔のことになります。書店へ行き、『タイ語の基礎』とか『タイ語10週間』とか、買ってきて勉強しました。『リンガフォン』も買いました。
 市販の参考書も、最初のうちは、それなりに役に立ったような気がしますが、少しわかりかけてくると、「文法」など、従来の「言語知識」では、頭の中にきちっと整理できなくて、悩みました。所詮、タイ語になんて、ちゃんとした文法なんてありゃしないんだと自分にいいきかせ、勝手に納得したりおりました。

 そもそも「言語(ことば)」というのは、文字や文法など整備されるより、はるか前から自然に話されてきたもので、文字や文法では、その話し言葉を、完璧に表現することなどできないのですが、他国の言語を習得するのには、いくらかは役に立つのではないかという幻想みたいなものもありまして、つい気にしてしまうものです。

 最近、妙な本のなかで、タイ語の文法概説みたいなものを見つけ、ちょっとばかり気に入って、参考になればいいなと、紹介することにしました。題名は、 『身につく知識大全集』。内容は多岐にわたり、大半が、一問一答の、当節流行の「ミリオネア・クイズ」式の問答集です。どうしてこんなクイズ見たいなものに、タイ語の解説があるのか、ちょっと納得がいかないのですが、この程度の知識は「物知り」としては、必要なのかも知れません。

 内容的には、タイの小中学校で学習する程度のものですが、品詞の分類など、タイ語らしくて、良いなと思ったりしています。おそらく、タイ人が講師をしているタイ語教室などでは、この程度のことは、ごく当たり前に説明されていることでしょうが。

 タイ人のためのタイ語文法のため、タイ語独自の術語があり、翻訳するに当たって、適当に日本語化したものもあります。

 また、「タイ日辞典(冨田竹次郎著)」の「まえがき」 などを無断で引用したところもあり、ちょっと後ろめたい気もしております。
 この辞典は、タイ語習得のためばかりか、タイ国の社会を理解するためにも、大変お世話になった辞典で、心から著者に感謝いたしております。著者は、最近他界されたそうですが、半世紀以上前にタイに留学され(日本からのタイ国への留学第1期生だそうです)、一生を「タイ語の辞書」つくりにささげられた方だそうです。さぞご苦労であったこととお察しいたします。
タイとタイ語に興味を持っておられる方には、是非、お薦めしたい書籍のひとつです。大部なものですが、著者のお人柄もしのばれる、読み物としても活用できる名作だと思います。

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(感想)  ある国の言葉を、別の国の言葉に置き換えるということ は、よくよく考えてみると、ほんとに難しいことだと思います。両方の「言葉」を充分理解していないことが最大の原因かもしれませんが、「通訳」などおおせつかって、どうしても正確に「翻訳」出来ないことに気づいたときは(そんなことが多いのですが)、冷や汗たらたらです。「通訳」とか「翻訳」などということは、ほんとのところあまり好きではありません。日本語のヴォキャブラリーすら貧困な者にとっては、どだい「翻訳」なんてことに、手を染めてはいけないことなのでしょう。
 ましてや、「話し手」、「聞き手」の文化や生活、生い立ちなどを十分理解してなくて、「翻訳」などやってはいけないことのように思われました。

 たとえば、「氷」のことをタイ語では「硬い水(ナム・ケン)」といいます。普通に「氷」をイメージして言う場合が多いとは思いますが、ほんとに「硬い水」を意識していることもないわけではないのです。冷蔵庫や製氷機が登場するまで、「氷」なんて見たことがなかったわけです。ときたま「雹(ヒョウ)」が 降りますが、これはあくまでも「ヒョウ」であり、彼らにとって「氷」ではないのです。タイ語の「硬い水」をそのまま「氷」と訳していい場合もあるでしょうが、タイ人のイメージする「氷」と日本人のそれと、一致するとは限らないのです。「雪」も同じです。タイ語には、「雪」なんて言葉はありません。サンスクリット・パーリ語からの借用語で「ヒマ(ヒマラヤの ”ヒマ”)」が使われますが、経験したことのない一般のタイ人には、「雪」のイメージは想像できないのです。

 いままでに、「翻訳」された文学作品などにも接してきましたが、翻訳作品によって身つけた知識の多くが、かなり歪曲されたものであることに、心痛めております。「文化の相互理解」なんてことも、軽々しく言えることではないと、反省しております。当地在住20年が経過して、わが家と近所のことは、いくらかわかるようになりましたが、「タイ」については、まだ まだまだわからないことばかりです。そんなわけで、タイについてあれこれ書いているとき、いつも後ろめたい気持ちで一杯です。
 この翻訳もあまり気が進まなかったのですが、ちょっとばかり興味があり、自分自身の勉強をかねて、あえて挑戦してみました。

 疑念をもたれたり、正確精密な「タイ語」を目指される方は、『タイ語学』の教科書をご利用されることをお勧めいたします。ちょっと硬い読み物くらいのつもりでお読みいただければと願っております。また、間違いなど、ご指摘いただければ、大変有難いと思っております。

 今回のWEBページは、まとまったものとしては、わが最大の労作でして、とりあえず公開できたことで、いくらかほっといたしております。未完了部分につきましては、出来るだけ早く公開できるように努力するつもりでおります。