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  以下の記事は、『 日本熱帯生態学会ニューズレター No.62 』 から、その一部を抜粋し、勝手に、HTMLに編集しなおしたものです。
 版権などは、原著者に帰属するものですので、ご留意ください。


シリーズ:熱帯非木材林産物生産を調べる
(5) タイ・ラオスの食用昆虫 渡辺弘之
Tropical Non-wood Forest Products (5) Edible Insect of Thailand and Laos
WATANABE, Hiroyuki, Tropical Ecology Letters No. 59 (2005)

タイ・ラオスの食用昆虫
 非木材林産物として,タイ・ラオスなら,当然あげられるのが食用昆虫であろう.私自身は食用昆虫に興味をもっているが,ゲテモノ・イカモノ食いではない.
 それはともかく,タイ北部・東北部,あるいはラオスの市場で売られている食用昆虫の多様さには驚かされる.
 タガメは日本では絶滅危惧種に指定され,マニアの間では一匹数千円で取引されているというが,タイではこれよりもう一回り大きいタイワンタガメ(Lethocerus indicus)が食用として,それも生きたもの,蒸したもの,フライにしたものが大量に売られている.このフレークにしたものさえある.扁平なからだで,とても食べるところなどないのだが,カメムシにも似たにおい・香りが目的である.
 オス・メスともににおいがあるが,オスの方が好まれ,値段が高い.乾季のはじめ,メスが抱卵しているときは,メスも好まれる.扁平な腹部にある卵塊を食べるのである.これは水生の昆虫,森林産物ではないかも知れない.

 熱帯研究者なら樹上に巣を作り,少しでも行列の邪魔をすると獰猛に噛みついてくるツムギアリ(サイホウアリ,Oecophylla smargadina)の勇敢さとその痛さはよくご存知であろう.はじめての東南アジアでこのアリの歓迎を受けた人は多いだろう.払っても叩いても噛みつき,離さない.涙がでるほど痛いものだ.
 タイではこのアリの幼虫をカイ・モットデーン(アカアリの卵)と呼びスープに入れ,また,バジル・レタスなどのサラダに混ぜる.乾季ならどこの市場にも大量に売っている.幼虫だけをより分けたごはんのように白いもの,成虫もまじった赤飯のようなものがそうだ.
 この時期ならレストランで注文すればきっとでてくる.

何でも食べる
 市場を覗くと,そこに食用としてのカイコの蛹,コオロギ,バッタ,ゲンゴロウ,ケラ,タケノコムシと呼ばれるタケツトガ( タケノメイガ, Chilo fuscidentalis あるいはOmphisa fuscidentalis),ミツバチやスズメバチの巣盤,セミ,ヤゴ,カブトムシなどを簡単にみつけることができる.
 タケノコムシはチェンマイ空港でも日本語で「ビールのおつまみに最高」と書いて売っている.
 ちょっとのことでは驚かなくなっているのだが,それでもタイ東北部のコンケンでエンマコガネ・ダイコクコガネなどさまざまな糞虫やきれいなタマムシの成虫を,北部のルーイで直径10 cmにもなるセアカナンバンダイコク(Heliocorris bucephalus)の糞玉を見つけたときは,さすがにこれも食材かと興奮してしまった.糞玉の中の幼虫を食べるのである.

 ラオスのビエンチャンで大きなカメムシの串を見つけたときもびっくりした.あのくさいカメムシを食べるのである.大きなカメムシ5匹の串刺しだった.
 その後,ラオスで染色材料を研究していた林里英さんからベトナム・中国国境に近いムアン・クワで洗面器いっぱいに小さなカメムシを売っていたと写真をもらった.写真を撮っていると別の店がうちにもあるよと見せにきたという.どこでとってきたのか聞いてくれたが「森の中にたくさんいるよ」との返事だったという.

   畑なら作物につく同じものを集めることはできるが,森の中では種類数は多くなっても,数を集めるのはたへんであろう.どうやって集めるのか,同行してみたいものだ.
 ともかく,その昆虫がどこにいるのか,どうやって捕るのか,昆虫の習性・生態をよく知っていること,またどう料理・加工するかといったことにも豊富な知識をもっているということだ.

よく知られたところ
 私自身はゲテモノ・イカモノ食いではないといったものの,これらは市場で売っている食材である.料理していないものだ.買って帰りホテルで料理するわけにもいかなかったし,料理法もわからなかった.それでも市場で揚げながら売っているゲンゴロウ,コオロギ,ケラなどは食べたし,郷土料理店では食材の昆虫をもってこさせ,スズメバチの幼虫や成虫などの料理を注文したことがある.
 地域によって,あるいは同じ街でも市場によって,さらには季節で売りにでる昆虫がちがってくるが,ゲテモノ・イカモノに興味ある方,いや伝統的食文化に興味のある方にはその食べ歩きをお奨めしたいところだ.
 お奨めは、タイ北部ランパンのゾウ保護センターの近く,チェンマイよりにあるトゥンクイエンの市場だろう.現在,タイの中では品数はここが一番多いように思う.
 食べるのなら,東北部ウドンタニのイサン(東北タイ)料理店クン・ニットだ.国道から少し入ったところだが,材料をもってこさせ,確認してから注文できる.この店は4月のソンクランにウドンタニ公園で,昆虫料理を無料で提供しているそうである.でかけてみられたらいい.

 タイ,ラオスでの食虫については古くから注目され,
 Bodenheimer, F. S. 「Insects as Human Food 」 W.Junk(1951)
 三橋 淳「世界の食用昆虫」古今書院(1984)
 三橋 淳「虫を食べる人びと」平凡社(1997)
 松香光夫・栗林茂冶・梅谷献二編「アジアの昆虫資源」農林統計協会(1988)
 渡辺弘之「アジア動物誌」めこん(1998)
 渡辺弘之「タイの食用昆虫記」文教出版(2003)
 野中健一「民族昆虫学」東京大学出版会(2005)
などに,たくさんの記載がある.


写真1 タイワンタガメ


写真2 ツムギアリ(サイホウアリ)の幼虫


写真3 ツムギアリ幼虫のサラダ


写真4 タケノコムシ(タケツトガ幼虫)


写真5 売られるセアカナンバンダイコクの糞玉


養殖が始まっている
 この地域で多様な昆虫が食用として利用されるのは不足の蛋白源を補うためのもの,経済発展・生活の向上でいずれは消えてゆくものと考えられている.
 実際,タイ東北部のコンケンでも1960 年代とくらべ,そこで売られている昆虫は,種類数・量ともに確実に少なくなっている.
 私が興味をもった1980 年代初めとくらべてもそれはいえる.タイの知人によれば,コンケンではだめで,もっと地方の小さな町へ行けばまだ品数はあるという.

 ところがである.一方で,タイワンタガメ,コオロギ,タケノコムシ,ツムギアリの幼虫などは,逆に増えているような気がしていた.
 より捕獲が強まれば,減少・絶滅の危惧さえあると思っていたのだが,野外からの採集だけでなく,実はもう養殖が始まっていたのである.
 タイワンタガメの養殖法の本が出版されているし,コオロギはコンクリート管を立て,ネットで蓋をして,ヨウサイ(アサガオナ・空芯菜)などを与えて各地で飼育している.村落周辺の森の中でせっせと採集しているだけでなく,もう養殖ものがでていたのである.タイの友人によると,タイワンタガメでも天然ものと養殖ものの区別ができるという.養殖ものと天然もののハマチのちがいであろう.

食用昆虫にも国際マーケット
 もう一つ,驚いたことがある.
 せっせと森に入って昆虫を捕ってくる,あるいは村の中で小規模な飼育をするといったことで,新鮮な昆虫が売られ,それはすぐに消費されていると思っていたのに,なるほどと納得する記事をみつけた.
 Time (2001 年7 月号)にタイ北部のピサヌロークの食用昆虫卸売り専門業者の冷凍室にはタガメ,糞虫,バッタ,タケノコムシなどの常時10 トンの在庫があり,ここからタイ全土はもちろん,香港・台湾,そして日本へ輸出しているというのである.日本へは何が来ているのだろう.

 タイでもっとも消費量が多いのはバッタだという.バンコク市内でも繁華街の夜店でバッタやコオロギを売っている.バンコクにある卸売り業者は400 人もの手押し車の小売や30 以上のレストランに卸しているという.ピサヌロークから供給されるらしい.こんなものにも販売ルートがあり,一部のものには国際マーケットさえあった.

   食用昆虫とはゲテモノ・イカモノ食いのイメージであろうが,一方でそれは食材の豊富さ,食生活・食文化の豊かさをも表している.品質の管理,安定した供給で,昆虫を食材にした郷土料理が維持されるといい.

   森林からの食用昆虫も,まちがいなく貴重な非木材林産物である.

写真6 カメムシの串刺し



写真7 売られる大量のカメムシ(写真 林里英)