「ナショナル製」が、「サンヨー」のダンボールに


 テレビの送信方式は、世界中では5通りくらいあるらしい。日本とタイは方 式が異なり、日本の「NTSC」方式の受像機だと、タイの放送はモノクロになってしまう。タイの方式は、「PAL」といって、確かフランスで開発された方 式らしい。どこがどんな風に違うとかは、調べてみたこともないのでまったくわからない。なにしろ、タイへ来るまでは、受像機にアンテナさえつければ、世界 中どこへ行ってもテレビは見れるものと思っていたくらいだから。
 日本のVIDEOも見たいということで、当時としては珍しかった「マルティ・システム」の受像機を探していた。バンコク内の電気やさんなど心当たりはみ んな探した。やっと日系の大手のデパートで「ナショナル製」のメイド・イン・ジャパンが見つかった。 棚に陳列されている少々ホコリをかぶった1台だけ。(今では、 場末の家電屋さんでも、陳列してあるテレビを売ることはまずない。経済成長のおかげで、どの店も在庫商品をたくさん置くことができるようになった。)
 仕方がないので、たった1台の、そのテレビ受像機を購入することにした。店員は、空き箱の保管してある倉庫(?)へ行ったきりなかなか戻ってこない。 10分ほど待たされて、少々いらだってきていた。件の店員は、この「TOSHIBA」の箱はないと言って、「SANYO」と印刷されている空き箱に、購入 予定の「TOSHIBA製」を入れ始めた。10分も探していたんでほんとにないのかもしれないとは思ったが、メーカーによって、受像機のデザインは少しづつ 違うわけで、すんなり「TOSHIBA」が「SANYO」の箱に収まるわけがない。発泡スチロールの保護材を、カッターで削り始め、「TOSHIBA」に あわせようとしている。
 今にして思えば、そんなに腹を立てることもないのかもしれないとは思うが、とうとう堪忍袋の緒が切れて、覚えたての片言混じりのタイ語で、「そんなこと で、一流デパートが商売になるのか。もう一度探して来い。遠いチェンライまで運んで行くので途中で壊れたりしたら困る」と、言を荒げて叱責した。間髪をい れずに、かみさんに、袖をつかまれ、「タイで大声でそんなこと言ったらダメよ」と耳元でいわれ、こちらの方が叱られてしまった。大の男が、はしたないとい うことらしい。それ以後も、懲りずに、2〜3回同じような注意をされたが、今では、何があっても、心して冷静を装い、つとめて大人らしく振舞うことにしている。姑息な日本人としてはなかなか骨の折れることである。
 タイでは、今でも、どちらかというと「売り手市場」で、日本のように「お客様は神様」ということはまずない。売っていただくという、心構えでないと腹の 立つことはたびたびである。
 とにもかくにも、その受像機は、つぎはぎの発泡スチロールを無理やり詰め込まれた箱に入れられ、無事チェンライまでやって来ることができた。
 日本人的には、テレビ受像機に限らず、一般に家電製品は、所定の箱に収められ、アタッチメントや、操作マニュアル、保証書などそろっていて初めて「商 品」の体裁が整うものと思っていたが、タイ人からすると、家に持ち帰ってコンセントに差し込んだときに、その商品の機能が満たされれば、何の文句を言われ ることがあろうかということらしい。箱に入っているものでも、中を確認して必要なものがそろっているかどうか十分確認しなければ、仮に不足のものがあった としても、買った側の責任になってしまう。
 「家電製品」に限らず、包装は、ごくごく簡単なもので、品物によっては「古新聞」に包まれることもしばしばである。 経済成長のおかげか、今では包装に も少しは気を使うようになってはきたが、それでも、世界一の包装大国の日本にはかなわない。 

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