「フタバガキ」(ラワン材)について

フタバガキの実
「フタバガキの木」

フタバガキ (フタバガキ科)
Dipterocarpaceae  

ディプテロカルプ、メランティ、クルイン、ヤーン(タイ)、榕樹(中国)

 北タイの疎林にまばらに聳え立つ大木は、殆んどが「フタバガキ科」の木である。枝を落としながら成長するため、高いところまで、枝が出ていない。葉の茂っているあたりは、遠目には「ブロッコリー」のように見える。
 「フタバガキ」の名は、「2枚の翼を持った種子」(dipterocarp)に由来するらしい。風が吹くとひらひらと舞い落ちてくる様子は、さながら「羽子板」の羽根のようである。種子を遠くまで飛ばすための物ではないらしく、親木の真下にさえ落ちなければいいのかもしれないが、羽根のある意味はよくわかっていないらしい。
 地質学的にも、ずいぶん大昔からある木らしく、原産はアフリカ大陸で「インド大陸」に乗って「プレート移動」とともに東へはこばれ、その後東南アジアに広まったらしい。500種ほどが知られていて、その大半は、マレー半島に分布し、インドネシア諸島、フィリピンなどにも広まっているようだ。
 「フタバガキ科」の木は軽くて硬質で商用価値が高く、ラワン合板材として広く利用されているが、「乱伐」のため激減しているらしい。

フタバガキの実
「3枚羽根のフタバガキの実」


フタバガキの実

 初めて、この実に出会ったのは、もう15年くらい前のことになる。ランプーン県の親戚を訪ねたおり、近くの即身成仏した坊さんのミイラで有名な寺の庭でのことである。あたり一面に、こんな変わったものが落ちており、拾い上げて空に向けて投げ上げると、

回転しながらヒラヒラと舞い降りてくる。
なんとも楽しい「木の実」である。
羽根の部分のそり具合が実に巧妙にできていて、大自然の巧妙さには感服する。
 いまでは、チェンライ県では、よほど山の中に入らないと見られない。以前は、里の近くにも見られたものらしいが、すっかり伐採されてなくなってしまった。チェンライあたりでは「ヤーンの木」と呼ばれ、ここ「パ・ヤーン」の村落の名にも残っている。(「パ」というのは“森”や“林”を意味する)。ほかにもあちこちで同じ名の村に出会うことがある。普通に見ることができる木であったにちがいない。いつの日か、「ヤーン樹」の林を復活させたいものである。
 「熱帯雨林の植物誌」(平凡社)に、ちょっと感動的なことが書いてあったので、蛇足ながら紹介。

 『・・・成熟したフタバガキ科の木が始めて花をつけるのに、ときには60年もかかる。そして花が咲き出しても次の花が咲くまでには三年、七年、あるいは十一年といった奇数の年数(あるいは多分もっと長く)がかかると聞いたら、多くの人はびっくりするにちがいない。・・・』

 数あるフタバガキの種も同じ時期に開花することはないらしい。

 『・・・多分、熱帯林のこの「巨人」は、数百万年以上もの間の進化の過程で、動物たちの「助け」を受けなくてもやせた土地に生育できるように適応してきたのだろう。風の助けも受けず、昆虫や鳥類あるいはその他の動物の援助もなく、まれにしか開花せず、他の種と交雑もしない。これらすべてはフタバガキの繁殖率がきわめて低いことを意味している。地上でフタバガキの分布が広がっていく速さは、安定しているとはいえたいへん遅く、一世紀にたったの1キロメートルにしかならないと推定されている。』

 『1985年現在、マレーシア、フィリピンのフタバガキの森林はほぼなくなり、スマトラ、ジャワではすでに伐り倒されてしまった。ボルネオが東南アジアでの森林開発の中心になっているが、あとどのくらいこの森林は持ちこたえられるのだろうか。現在の消失率からいけば、西暦2005年までだろう。』

 ちかぢか、経済規模での伐採はできなくなることだろうと思われるが、「合板材」の原材は、転換されているのだろうか。