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ピロリ菌を食で退治 梅、乳酸菌、海藻…

 40歳以上では7割以上の人が感染し、胃炎や胃がんの原因とされるピロリ菌。退治の基本は除菌治療だが、身近な食べ物にもピロリ菌を減らす物質があることがわかってきた。梅、一部のヨーグルト、海藻、ココア…、専門医は「1日に2回以上に分けて食べると効果的」とアドバイスする。また、野外レジャーの機会が増える夏場、10歳以下の子供は生水による感染に注意が必要という。
(八並朋昌)
抗ピロリ菌作用のある海藻のモズク、梅干し、LG21ヨーグルト

抗ピロリ菌作用のある海藻のモズク、梅干し、LG21ヨーグルト
 

医学的に裏付け

 ピロリ菌退治の身近な食べ物といえば梅。南高梅(なんこううめ)の産地として知られる和歌山県みなべ町の林秀行うめ課長は、「昔から言い伝えがある梅のさまざまな効能を医学的に裏付けようと、平成13年から町と県立医大で共同研究を行い、15年にピロリ菌の動きを殺す物質を確認した」という。抗酸化物質の梅リグナンの一種、シリンガレシノールがそれで、特許出願中だ。
 大粒の梅干し1個に250マイクログラムのシリンガレシノールが含まれる。青梅汁を煮詰めた梅肉エキスのピロリ菌抑制作用も、この物質によるものだ。
 和歌山県立医大の宇都宮洋才(ひろとし)講師(機能性医薬食品探索講座)は「梅干しをよく食べる人にピロリ菌感染が少ないことから、梅の成分を分析して突き止めた。関連した天然物質をほかにも相当数発見しており、今後発表していく」という。研究では黄色ブドウ球菌などの制菌作用や、動脈硬化抑制、糖尿病予防効果なども確認している。
 

胃の粘膜を修復

 東海大医学部の古賀泰裕教授(感染症学)が発見したLG21乳酸菌は、ピロリ菌を抑制し、胃粘膜の炎症を改善する効果が確認されている。明治乳業は12年から、この乳酸菌を使った「LG21ヨーグルト」を発売。スーパーなど店頭販売のほか、宅配もしている。
 コンブやモズクなど海藻のネバネバ成分「フコイダン」は、海藻表面の傷を覆って修復する物質で、人間の胃粘膜にも同様に作用する。さらに胃粘膜と間違えて吸着したピロリ菌を一緒に排出してしまう。ヤクルトはモズク抽出のフコイダンを配合した「フコイダン茶」を販売している。
 また、森永製菓は13年に埼玉医大などとの共同研究で、ココアに含まれる遊離脂肪酸(FAA)のピロリ菌殺菌効果を確認した。「一般的なココアでも通常濃度で十分な殺菌効果を得られる」が、さらにFAAを強化したココア「カカオFAAパワー」も通信販売している。
 

子供の感染注意

 ますみつ消化器科(東京都国分寺市)の益満博院長は「ブロッコリーの新芽(スプラウト)やニュージーランド産はちみつのマヌカハニーにも抗ピロリ菌作用があるとされる。食物は1時間半ほどで胃から出てしまうので、梅干しでもヨーグルトでも1個を1日で2回以上に分け、できれば空腹時に食べるのが効果的」と助言する。
 さらに、「われわれが処方する胃粘膜保護剤にも同様の抗ピロリ菌作用がある。ただ一般に完全除菌できるのは除菌治療しかない」とも。
 一方、ピロリ菌感染の注意点については、こうアドバイスする。
 「ピロリ菌は人の排泄(はいせつ)物から水を介して感染するので、野外レジャーや海外旅行が増える夏場は不衛生なわき水や井戸水に注意。抵抗力が弱い10歳以下の子供が飲むと感染危険度が高い」
 感染した母親が食べ物をかみ砕いて乳児に口移ししても感染するほか、「ゴキブリが媒介するという報告もあり、小さい子供がいる家庭では、糞(ふん)がみつかったら駆除の徹底と食器の洗浄が大切」と呼びかけている。
≪薬の集中服用で除菌≫
 ピロリ菌は、発見場所の胃の幽門(ピロルス)から命名。胃炎から潰瘍(かいよう)、がんに進行する危険性が高く、疫学調査では胃がん患者の94%が感染していた。
 「血液検査や内視鏡で感染の有無を調べ、私のところでは抗生剤2種と制酸剤1種を1週間集中服用し、半年後に完全除菌できたか判定する」と益満博院長。風邪などで同種抗生剤の服用を続け、菌が耐性化した人もいるため、成功率は80%程度。失敗の場合は薬剤を変えて2次除菌を行う。
 「喫煙者は成功率が50%ほどなので、禁煙後2〜3年して行う」。また、「成功しても胃がんの危険が完全になくなるわけではないので、年1度の内視鏡検査は不可欠」という。

1日分の薬シートを手にピロリ菌治療を説明する益満博院長=東京都国分寺市の「ますみつ消化器科」

1日分の薬シートを手にピロリ菌治療を説明する益満博院長
=東京都国分寺市の「ますみつ消化器科」

(2007/07/20 15:04)