「入り鉄砲に出女」


 タイには、21世紀になっても、「関所」が健在である。
 日本と異なって近隣諸国との国境が地続きのため、国境検問所があるのは言うまでもないが、幹線道路のあちこちに「関所」が設けられている。「管区警察」が随時行う検問所もあるが、チェンライ県などのように県境が国境になっている県には、「国境警察」が管理する常時検問所がある。近くでは、メチャン郡とチェンライ市の境の峠付近にある。すぐ近くには「国境警察」の駐屯基地があり、いざというときには、大部隊が駆けつけることができる。
 普段の取締りの対象は、麻薬不法滞在者武器などの取締りが目的で、通過する車を止めて、チェックしている。特に、他県ナンバーの車やチェンライ方面へ向かう車が厳しくチェックされるようである。
ずっと以前、パスポートを家に置き忘れて、高額の罰金を取られたことがあるが、最近では、先進国(?)からの外国人には甘いようで、パスポートなしでも、問題にされないことが多いらしい。
 それにひきかえ、「山岳民族」に対する取り締まりは相変わらず厳しい。
タイに居住することは認められていても、居住地からの移動は、特別の許可がない限りできないことになっているらしく、捕まるものが多い。特に女性の都会への出稼ぎは厳しく取り締まられているようだ。乗り合いバスの乗客のチェックは厳しく、「身分証」を携行していないものは、その場で降ろされるようである。タイ人なら誰もが持っていて、常時携帯を義務付けられている、「身分証」が「通行手形」の役割を果たす。
 江戸時代にも「お国訛りが通行手形」なんてことがあったらしいが、地元の人たちにとっては、言葉の「なまり」が、「通行手形」になる。「山岳民族」の多くは、普段は、それぞれの民族の言葉をしゃべっていて、「地元ことば」は話せない。若い人たちも学校で習うのは、タイの「標準語」で、地元の「カム・ムアン」と呼ばれる北タイ語は使えない。「メチャン」を標準語では「メーチャン」とのばして発音するのが正しいが、どこから来たか尋ねられて「メーチャン郡」などと答えると、それだけで「不合格」になる。地元のタイ人は、のばしては発音しない。

 タイの農村部の道路網は、幹線道路からの行き止まりの脇道はあるのだが、「姫街道」のような裏道は、ほとんどないため、検問で摘発される確率が高くなる。
また、普段、かなりいい加減な検問をしているため、油断しているのだろうか、時に厳重な検問の際には、麻薬などが見つかることが多いらしくニュースの話題になることもしばしばである。
 ベトナム戦争のころから始まったらしい現代の関所が、この先いつまで続くのかわからないが、そんな必要のなくなる日が早く来ればいいと思う。